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2018年7月15日 (日)

『聖書』の解釈とヴィーガニズム(4)


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 洪水が収まるとエロヒムはノアに箱舟から出るように言った。

 二月二十七日になって、地は全くかわいた。

 この時、神はノアに言われた、「あなたは妻と、子らと、子らの妻たちと共に箱舟を出なさい。あなたは、共にいる肉なるすべての生き物、すなわち鳥と家畜と、地のすべての這うものとを連れて出て、これらのものが地に群がり、地の上にふえ広がるようにしなさい」。

 ノアは共にいた子らと、妻と、子らの妻たちとを連れて出た。またすべての獣、すべての這うもの、すべての鳥、すべて地の上に動くものは皆、種類にしたがって箱舟を出た。

 エロヒムははなはだ良い世界を造った神であるから、はなはだ良いタイミングで人間に啓示を下すのである。

 既に述べたように現象の世界は人間がその不完全な心で見ている夢のようなものであるが、その例えで言うとエロヒムは人間がより良い夢を見るように導いているわけだ。

 ところが、ノアはここで致命的な間違いをしているのである。彼はエロヒムとヤハウェを混同し、その区別ができていなかったのだ。

 既に述べたようにエロヒムとヤハウェは似たような啓示を下している。そのことからノアはエロヒムとヤハウェを混同してしまったのかもしれない。

 よりによってノアは動物を生贄にして神に供えるのである。エロヒムは人間のみならず動物をも救うために箱舟を作らせ、事細かく箱舟の作り方を指示したのであるが、ノアはその神が救おうとした動物を生贄にしたのだ。

 ノアは主に祭壇を築いて、すべての清い獣と、すべての清い鳥とのうちから取って、燔祭を祭壇の上にささげた。

 主はその香ばしいかおりをかいで、心に言われた、「わたしはもはや二度と人のゆえに地をのろわない。人が心に思い図ることは、幼い時から悪いからである。わたしは、このたびしたように、もう二度と、すべての生きたものを滅ぼさない。地のある限り、種まきの時も、刈入れの時も、暑さ寒さも、夏冬も、昼も夜もやむことはないであろう」。

 既に述べたようにヤハウェは羊の生贄を好んで受け取るような存在である。ノアが動物を生贄にすることで喜んだのは本来の神であるエロヒムではなく、ヤハウェであった。

 そしてヤハウェは自分に動物の生贄を供えられたことを悦び、二度と大洪水のようなことを起こさないと決めるのである。

 ヤハウェはある時はエロヒムと似たようなことを言い、ある時は全く矛盾するようなことを言う。つまりは「神もどき」である。現象の世界を造った存在であるから「神のようなもの」であるが、その現象の世界自体が夢のような世界で本来の世界ではないから、決して「唯一絶対の神」そのものではないのだ。


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 ヤハウェに生贄を捧げるノアを見てエロヒムはこう告げる。

 神はノアとその子らとを祝福して彼らに言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ。地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、すべて生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう。さきに青草をあなたがたに与えたように、わたしはこれらのものを皆あなたがたに与える。しかし肉を、その命である血のままで、食べてはならない。あなたがたの命の血を流すものには、わたしは必ず報復するであろう。いかなる獣にも報復する。兄弟である人にも、わたしは人の命のために、報復するであろう。

人の血を流すものは、人に血を流される、

神が自分のかたちに人を造られたゆえに。

あなたがたは、生めよ、ふえよ、

地に群がり、地の上にふえよ」。

 ここでエロヒムは一見すると肉食を許可しているように見える。これまでのエロヒムの行動と一見矛盾している。

 なお、『旧約聖書』は後世の編纂物である。だからここで言うエロヒムは実はヤハウェのことではないか、という解釈も一応は成り立つ。

 しかし「神が自分のかたちに人を造られたゆえに」というのは明らかにエロヒムのセリフだ。ヤハウェは人間を塵から造った上に「肉にすぎない」と述べているのだから。

 ここでエロヒムはノア達に自分が「肉体・人間」ではなく「神の子・人間」であることを告げているのである。

 どういうことか。

 まず、エロヒムにとってこの世界は本来存在しない世界だ。本当の「はなはだ良い」世界では人間は菜食をしており、そして未だエデンの園から追放などされていない。地上の世界は人間が勝手に見ている夢の世界である。

 ところがその夢の中でノアはヤハウェに動物を生贄にした。そこでエロヒムは

「そうか、お前は動物を生贄にしてまでニセモノの神であるヤハウェに好かれたいのか。わかった、どうせ現象の世界は夢のようなものだ。お前たちは本来の世界では植物だけを食物として与えられていたが、この本来存在しない現象の世界では動物を食べても良いぞ。」

と告げた後で、さらにこう告げたのだ。

「しかし、忘れるなよ。私はお前たち人間を神に似せた造ったのだ。本来人間は神の子なのである。そのことを忘れるな。」


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 この後のエロヒムの言葉が重要である。

 神はノアおよび共にいる子らに言われた、「わたしはあなたがた及びあなたがたの後の子孫と契約を立てる。またあなたがたと共にいるすべての生き物、あなたがたと共にいる鳥、家畜、地のすべての獣、すなわち、すべて箱舟から出たものは、地のすべての獣にいたるまで、わたしはそれと契約を立てよう。わたしがあなたがたと立てるこの契約により、すべて肉なる者は、もはや洪水によって滅ぼされることはなく、また地を滅ぼす洪水は、再び起らないであろう」。

 さらに神は言われた、「これはわたしと、あなたがた及びあなたがたと共にいるすべての生き物との間に代々かぎりなく、わたしが立てる契約のしるしである。すなわち、わたしは雲の中に、にじを置く。これがわたしと地との間の契約のしるしとなる。わたしが雲を地の上に起すとき、にじは雲の中に現れる。こうして、わたしは、わたしとあなたがた、及びすべて肉なるあらゆる生き物との間に立てた契約を思いおこすゆえ、水はふたたび、すべて肉なる者を滅ぼす洪水とはならない。にじが雲の中に現れるとき、わたしはこれを見て、神が地上にあるすべて肉なるあらゆる生き物との間に立てた永遠の契約を思いおこすであろう」。

 そして神はノアに言われた、「これがわたしと地にあるすべて肉なるものとの間に、わたしが立てた契約のしるしである」。

 ここでエロヒムは「肉なるもの」という言葉を強調している。

 そう、ここでいうエロヒムの言葉は「肉体・人間」「肉体・動物」に対して発せられたものなのである。

 ノアは自分たち人間を「肉にすぎない」と言ったヤハウェを信じて、彼の機嫌を取るために動物を生贄にした。そこに「神の子」としての自覚はなかった。

 注意してほしいのは、エロヒムは「肉なる人間」に対して肉食を許可はしたが、推奨はしていない、ということだ。

 ここでノアには二つの道があった。

 一つ目は、自分は神が造った「はなはだ良い」世界に住む「神の子・人間」であることを自覚して暮らす道である。

 肉食はあくまで「肉なるもの」に許可された話である。自分たちが「神の子」だと思っているならば、当然に食生活も菜食となる。

 二つ目は、自分は「肉体・人間」であってヤハウェに対して動物を生贄にして供え、自分自身も動物の肉を食べる道である。

 ノアが選んだのは後者であった。『旧約聖書』はその後のノアの姿も記している。

 さてノアは農夫となり、ぶどう畑をつくり始めたが、彼はぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。カナンの父ハムは父の裸を見て、外にいるふたりの兄弟に告げた。セムとヤペテとは着物を取って、肩にかけ、うしろ向きに歩み寄って、父の裸をおおい、顔をそむけて父の裸を見なかった。やがてノアは酔いがさめて、末の子が彼にした事を知ったとき、彼は言った、

「カナンはのろわれよ。

彼はしもべのしもべとなって、

その兄弟たちに仕える」。

また言った、

「セムの神、主はほむべきかな、

カナンはそのしもべとなれ。

神はヤペテを大いならしめ、

セムの天幕に彼を住まわせられるように。

カナンはそのしもべとなれ」。

 息子に裸を見られたことを理由に、その息子の子供(つまり、自分の孫)にヤハウェに頼んで呪いをかけるノア。

 そこには神から祝福された善人の姿はなく、自らの孫を呪う偏狭な老人の姿があるだけであった。


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